広く浅く買われている昨今の日本切手

今、日本で多くの切手が1年間に発行されています。その大半はグリーティング切手とシリーズ物切手なのですが、ここ数年のシリーズ物を大雑把に分けると、だいたい次の8種類に分類できます。

  • 伝統
  • 動植物
  • 風景
  • 鉄道
  • 食べ物
  • 物語
  • 宇宙
  • 芸術

こういったテーマの切手を発行するとよく売れるということなのでしょう。

今や日本で特殊切手を郵便局に買いに行く人たちの7~8割が30代から50代の女性とのことです。この中には職場で使う切手のまとめ買いを担っている方たちや、自分で手紙に使う方もいます。いずれにせよ客の大半は女性なのですから、彼女たちが好んで買っていく切手とはどんなものなのか? というテーマについて、日本郵便なりに売れ行きを研究するのが当然ですし、その結果が上の8ジャンルなのでしょう。もちろん、中には女性以外をターゲットにしているものもあるでしょうが。

ここに従来の郵趣家にとっての不幸があります。60代以上の男性郵趣家が今の切手を見てピンとこないのも無理はありません。何しろターゲット層が全然違うのですから。ちなみに、これを書いている私自身も対象外です。

以下はあくまで私の観察です。裏付けとなるデータが揃っているわけではありません。しかしSNSなどを見ていると、最近の切手の買われ方が従来の収集家によるものとは一線を画しているのが垣間見えます。新しい切手が発売された日にツイッターなどで反応を見ていると、やはりメインの購買層と思しき方々がよくツイートされているのですが、彼女ら・彼らには従来の収集家のように、すべての新切手を買うという発想はありません。自分の琴線に触れた切手のみを買うのです。

また、あくまでも切手は郵便物に貼って使うものというのが根本にあり(お気に入りすぎて使えないと結果的に死蔵するケースもありますが)、いくらデザインが気になっても使う機会がなさそうと判断すれば、切手購入に繋がらない場合があります。一方でこれは気に入ったとなれば、10シート単位でまとめ買いするという光景も見られます。実際、私も郵便局にて、同じシール切手を30シートほどまとめて買っていった女性を目の前で見たことがあります。これが今の新切手の買われ方です。広い層が浅く買っているのです(と、いうことを以前にも書きました)。

日本郵便もこうした傾向を理解しているのでしょう。シール切手が多くなったのは、貼るのに便利で人気だから。大量に貼る場合は湿らす切手よりシール切手のほうが圧倒的に便利なのは言うまでもありません。また昨今の切手大量発行は、選択肢を増やすため、そして人気のジャンルを見極めるため。いわば切手のカンブリア爆発です。

しかし、定番のジャンルばかりにするとマンネリ化して飽きられますし、切手デザイン室のモチベーションも上がらなくなることでしょう。そこで新しいジャンルをどうか開拓していけばいいか、ということを日本郵便は必死に考えているはずです。似た実例を挙げると、日本郵便はここ数年、コミックマーケットに出展していますが、社内でプロジェクトチームを組んで、そこで販売するフレーム切手などの商品開発会議を月1回ペースで行っています。利益を出さなければならない民間の株式会社ですから当然といえば当然のことと言えます。

こうした買われ方は良い傾向であるように思います。特定の狭い層が深く(=たくさんの種類を)買うという傾向は、短期的にはたくさん売れるのですが、長くは続かず、いずれ収集家が疲弊して限界を迎えるからです。これは私自身の、切手以外での収集体験からの結論です。

しかし、自分が好きな切手だけを集める、という昨今の風潮は、むしろコレクションの基本ではないでしょうか? 発行された切手を全種類買えなどと誰も頼んでいないのに、「切手の発行件数が多すぎる」と怒っているご老人を見ると苦笑いしか出ません。どうせ切手コレクションに完集はないのです。それより、自分の好きな切手だけに囲まれているほうが、よっぽど収集家として幸せに過ごせるし、収集も長く続くと思います。