郵趣に暗い影を落としつつあるウクライナ戦争

今年のフィラテリストマガジン・迎春特集号にて開催された『大名刺交換会』に参加した際、「本年が海外にて開催される国際切手展への観覧に目処が立つ年となることを祈念しています」と書き添えたのですが、現時点では個人的に、かなり悲観的になりつつあります。この文章の念頭にあったのは新型コロナウイルスの感染状況が年内には落ち着くのではないかという淡い期待でした。現時点でも終息の目処は立っていませんが、それ以上に厄介な問題になっているのが先月末に勃発したロシアによる対ウクライナ戦争です。

残念ながら戦争が郵趣に暗い影を落としつつあります。

すでにウクライナ郵政への切手注文は事実上不可能となっており、ロシアやベラルーシに対する経済制裁の影響で同国の郵政や在住の切手商への注文はともかく、決済や発送が不可能になりつつあります。ロシアの通貨ルーブルは暴落することが予想されており、通貨が暴落すればロシアから切手を安く買えそうなものですが、しかしVISAやマスターカード、アメックスと言ったクレジットカードは次々にロシア国内でのサービスを停止し、銀行送金をするにもSWIFTからはほぼ排除され、PayPalもサービスを停止しました(これは抜け穴がありますが)。そのうちにビットコインでの決済を要求する切手商も出てくるのでしょうか? しかし物流も止まりつつあるため、あっという間に外国の収集家が新切手を入手しにくい国になってしまいました。

海外への渡航もまたハードルが上がりそうです。既に日本航空や全日空はヨーロッパへの便について、ロシア領空内を飛ぶのをやめ、多少時間がかかっても北米からの進路に変えています。これはロシア軍からの撃墜を警戒しているのではなく、トラブル時にロシア領内の空港に着陸した場合、また再び安全に飛び立てるかが不明だからです。このため到着までに通常よりも余計に数時間程度を要しているようです。今後、戦火が拡大することになればフライトそのものが取り消されかねません。欧州での切手展観覧も叶いにくくなるでしょう。

一方でこの戦争に伴う郵趣マテリアルが今この瞬間も作られて続けているのでしょう。そもそも郵便物は時代を記憶する性格を持っており、ある意味で当然のことと言えます。実はウクライナへの国際郵便引受が停止される直前に同国の首都キーウ(キエフ)宛に郵便物を差し出していたのですが、この通り、やはり戻ってきてしまいました。紛争勃発による引受停止とは書いてありませんが、結局はこれも戦争が生み出したマテリアルには違いありません。戦争が現在進行形で続いている以上、あまり嬉々として公開するようなものでもありません。

以前にも書いたように、郵趣そのものは平和でなければ楽しむことができません。社交の場として欧米で発展した切手展と戦争はまったく相反するものです。ウクライナ戦争の終結を含めて「海外にて開催される国際切手展への観覧に目処が立つ」ことを願う日々がしばらく続きそうです。