『民間切手』というモノがあります。元来の意味は、郵便事業は国営が当たり前だった時代、何らかの理由で民間会社が郵便事業を行う際に発行した私用の切手というのが私の認識で、これまでにイギリスやニュージーランド等で発行されてきました。私はこの辺の事情にあまり詳しくないので下手なことは書けないのですが。
以降、国営郵便事業を民営化する国が増え、我らが日本郵便も今や民営の会社です。官製はがきという言葉は(未だに広く使われていますが)もはや間違いであり、切手も民間会社が発行しているわけですが、こういった『モト国営』の郵便事業会社が発行する切手や、民営の切手代理発行エージェントが発行する、国営+モト国営の郵便事業で使える切手は民間切手とは呼びません。
ところが最近、違った意味で民間切手という言葉が使われているのを主にネット上で目にします。しかしその実態を見れば、実在の国名が入っているのでいかにもその国の郵便事業者が発行した切手のように見えるのですが、しかし実際にはいかなる郵便事業者が発行したわけではなく、委託して作ってもらった切手でもない、全くでっち上げのラベルであるようです。いかなる郵便にも使えず、法的にも全く正当性がないこういったラベルは違法切手(illegal stamps)と呼ばれています。これまでに私も何度かウェブログ等でご紹介し、これに関する同人誌を出したこともあります。
これら違法切手はいかなる(自称含む)国家が発行した切手ではないし、切手カタログにも収録されていません。日本は今のところ、こういった違法切手のターゲットにはなっていないため日本切手専門で集めている人が違法切手の存在を知らないのは致し方ないと思いますが、驚くべきことに、外国切手を集めている日本のコレクターでもこういった違法切手の存在を知らない方にたまに遭遇します。どこかの誰か(多分、民間人)が勝手にでっち上げたモノだから民間切手と呼んでいるのでしょうか。いずれにせよ、明らかな誤用です。
違法切手で問題なのは、それがでっち上げのラベルだとわかりにくいということです。例えばアフリカのルワンダは違法切手のターゲットになってしまっており、実際にはルワンダ郵政による切手ではないのにルワンダの名前を騙った違法切手が国際切手市場に大量に出回っています。しかしそれら実物を見ても、ルワンダの切手に詳しくなければすぐに違法切手と見破ることは難しいでしょう。切手カタログで確認できればまだいいのですが、収録タイミングが遅い場合もあり、切手の種類が多ければ切手商の店頭での確認は事実上困難です。これとは別にシンデレラ切手という言葉もありますが、それは基本的には国名が入っていないなど明らかに切手ではないということがわかるモノです。
違法切手とわかっていて買うのであればまだいいのですが、しかし一番恐ろしいのは本物の切手と勘違いして買ってしまうことです。ジュニア郵趣家育成にも悪影響を及ぼす存在で看過できません。そういう意味では民間切手と書いてあるだけ実は良心的なのかもしれません。しかしこういった事情を知らないと勘違いして買ってしまう危険があることに変わりはありません。民間切手と呼ばれるものを買おうとする際には、その実態をよく確認の上、購入することを強くおすすめする次第です。