新切手を安価で手に入れるというゲーム

今回はここ数年以内に発行された新切手についての話であることを最初にお断りしておきます。つまり、クラシック切手どころか20世紀の切手ですらないという意味です。ついでに、ここでは未使用に限りましょう。未使用の新切手を今、最も安く入手する方法は何でしょう?そうです、正解は『郵便局で買う』です。郵便局の窓口での購入が最低値で、その後、色々な人が間に介在するごとに値段が高くなっていきます。これは、皆さん実感としてご理解いただけることと思います。もちろん、しばらく待てば額割れ切手として安く入手できるチャンスはあるでしょうが。

上の問いには国に関する但し書きがありません。新切手を最も安く入手することを考えた場合、日本切手は日本の郵便局で、アメリカ切手はアメリカの郵便局で買うのがいいのです。しかし日本にいる人がアメリカ切手を買おうとしてもアメリカの郵便局に気軽に行けるわけではありません。これは新型コロナによる渡航困難のことを言っているわけではありません。単純に考えて日本からアメリカに往復するのに数十万円はかかるからです。それだったら多少割高でも国内の切手商で買うほうがマシですね。つまり、ここで国境の壁が立ちはだかることになります。

そこで、次善の策として、インターネット上で郵政事業体が切手を通販してくれる国に関しては、それを利用するのがいいということになります。国外の収集家に直接、郵政事業体が切手を販売してくれる国はそれなりにあります。オリジナルの販売価格に送料を上乗せした額を払えば送ってくれるのです。この方法であれば、欧米諸国のかなりの国について手に入れることが可能です。主に欧州諸国が加盟している共通販売サイトWOPAはたまに割引企画を実施してくれることもあるので、むしろその国の郵便局で買うより安く手に入る場合さえあります。このほか、国によっては一定額以上買えば送料不要という場合もあります。

残念ながら日本は今のところ海外に向けて新切手の通販はしていません。昨年(2020年)の日本郵政株主総会では海外への通販を開始する方針だと明言してはいますが、今すぐというわけにはいかないでしょう。この意味で海外郵政の切手通販方針をとやかく言う筋合いは日本にはないのですが、例えば韓国郵政はネット上での通販処理がどうしても途中でエラーが起きてしまい注文できないことが知られています。こういうのは本当にもったいないと思います。他には、ベラルーシ郵政は国外に通販しているのに一部の国には切手を送ってくれません。何故か日本も郵送の対象外です。なのでまた頭を一捻りする必要があります。このほか、切手代理発行エージェントによる切手はエージェントから直接買ったほうが早いです。

海外郵政からの通販もできない場合、いよいよ国内切手商の利用が選択肢に入ってきます。しかしどうしても値段が高くなります。今はインターネットで現地での値段をすぐ日本円に換算することができますが、経験上、日本国内では額面の3倍弱の値段で売られています。それが悪いということでは決してありません。商売なので売れ残りも考えなければいけませんし、国外郵政部との商品確保の交渉、為替レートの変動、切手の状態の良し悪し、日本に届くまでの事故リスクなどなど、すべてを負ってくれているわけですから、断じて割高な値段ではありません。それに、注文してからすぐに日本国内の住所に送ってもらえます。海外からだと今でも届くのに1週間以上はかかると思います。

とはいえ、国内の切手商が海外の新切手を全て取り扱っているわけではありませんし、やはり高いなという感覚もわかります。そこでdelcampeやebayなどを利用することになります。国内切手商より安いとは限りませんが、多少は豊富な種類の切手を入手可能です。これで世界のかなりの地域をカバーできますが、それでもどうしても入手困難な国や地域があります。

さてここまで長々と読んできてこう思った方もいらっしゃるでしょう。「そこまでして安く手に入れたいのかい?」と。確かにここまで面倒なことを考えるのであれば全て切手商にお任せという方もいらっしゃるでしょう。私の場合は安値で手に入れる知恵比べを楽しんでいると言ったほうが正確なのかもしれません。そう、これはゲームなのです。ゲームなので負けることもあります。たまにかえって高くついてしまう場合もありますが、それは気にしない。一番問題なのは入手しようにもその糸口すらつかめない場合です。

こんなニュースがありました。今年3月にローマ教皇フランシスコがイラクのクルド自治区を訪問し、クルド自治政府がその記念切手を発行したのですが、クルディスタンの地図(トルコ、イラク、イランなどにまたがっている)を切手に描いたことで『領土を奪われる』形となったトルコとイランが「独立の野心があるのか!」と大激怒してしまい、自治政府が慌てて火消しに走ったのですが、その態度がまたクルド人から弱腰と反感を買うという事件が発生しています。こんな面白い切手、手に入れない手はないでしょ?

領土の侵害?切手デザイン物議 クルド自治政府が火消し
https://www.asahi.com/articles/ASP3Q6CVWP3GUHBI024.html

クルド自治政府の切手は手に入らないわけではありません。が、なかなか国際切手市場に出てこないのが正直なところです。値段も高めですが、そもそもモノがないのでどうにもなりません。このゲームは長引きそうです。