英領インド洋地域、切手発行を事実上終了?

2021年、新たな切手のデッド・カントリー(発行を終了した国・地域)が登場した…かもしれません。イギリス領インド洋地域(略称:BIOT=British Indian Ocean Territory)です。

既にお伝えしてきたとおり昨年(2020年)はアイスランドが新規切手の発行を終了し、国そのものは存続しながらデッド・カントリーになるという事態になりました。しかし、将来的に全く切手を発行しないのかと言われると、それはわかりません。当面は在庫分の切手で足りるという説明であり、お金を出してくれさえすれば新切手発行は考えるというスタンスだったからです。しかし今回のBIOTに関しては行く末がわからない状況です。

そもそもBIOTとはインド洋にあるチャゴス諸島と現在のセーシェル(1976年に独立)を中心とした地域で、そのチャゴス諸島は元々モーリシャスの一部でした。しかし同国がイギリスから独立する際に切り離され、以降もイギリス領として留め置かれ、全島民はモーリシャスなどへと追放されました。

当然のことながらモーリシャスはチャゴス諸島の返還を要求しており、2019年には国際司法裁判所と国連総会が、2021年には国際海洋法裁判所がイギリスに対してチャゴス諸島を返還するよう求めました。そして今年8月、ついに万国郵便連合(UPU)がチャゴス諸島からの郵便物にBIOT名義の切手を使うことを禁じ、モーリシャスの切手しか認めないとする判断をほぼ全会一致で下しました。

BIOT sovereignty dispute and the likely end of its stamps
(Linn’s Stamp News、2021/5/30)
https://www.linns.com/news/world-stamps-postal-history/biot-sovereignty-dispute-and-the-likely-end-of-its-stamps

British stamps banned from Chagos Islands in Indian Ocean
(BBC-英国放送協会、2021/8/25)
https://www.bbc.com/news/world-africa-58321580

BIOT郵政はチャゴス諸島最大の島・ディエゴガルシア島にあり、現在ここはイギリスが2036年までアメリカに貸し出しており、米軍の海軍基地が置かれています。仮にUPUが国際郵便にBIOT名義の切手を使うことを禁じても国内郵便には使えますが、しかし人口4,000人強という規模では、切手にそう大した需要があるとは思えません。つまり今年8月のUPUの決定で、BIOT名義の切手は実際の郵便物に使われる機会をほぼ失ってしまいました。

BIOT名義の切手は1968年から発行されており、現在までに単片ベースで約720種程度となっています。現在のところ、最後に発行されたのは今年の6月8日です。しかし、もう次はないかもしれません。これがその最後となるかもしれない切手シートです。

さて、この切手はBIOT郵政に直接注文したものです。今年10月中旬に発注しましたが、ディエゴガルシア島からシンガポールに船便で運ばれ、そこから現地スタッフが国際郵便で送るという手順を踏んでの送付でした。ディエゴガルシア島を出発したのが11月中旬、シンガポールに到着したのが11月末、そして日本の私の自宅に届いたのが先日です。シンガポールまで航空便ではなく船便で運ぶのは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と空港の制限のためなどと説明されましたが、まあ色々あるんでしょう。結局、ディエゴガルシア発ではなく、シンガポール発で国際郵便が日本に送られてきたのは、さもありなん、です。しかし、送付に使用された封筒はまさにイギリス郵政で使われているものと同じ。イギリス領であることを強調しているようにも見えました。

そして切手と共に入っていたのが、プリントアウトされた注文品一覧。そこにはディエゴガルシアの消印と思しきものがありました。もはや国際郵便には押すことができないこの消印を、せめてここに押しておこうということなのでしょうか。