これは定期的に問題提起したい話題です。特に最近の外国切手を収集している人に対しては常に認識してもらいたい点なのです。なぜなら大問題であるにも関わらずあまりに認識されていないように感じることが多いからです。
それは違法切手(illegal stamps)の存在です。ありもしない切手をでっち上げて製造し、世界中の収集家に売りつけて大儲けしようとする不逞な輩が存在しているのです。しかも20世紀末の頃から。ところがそういった危ない罠が存在しているにも関わらず無頓着な収集家があまり多いような気がしてなりません。私がそう考える根拠の一つは処分された外国切手コレクションの中に必ず最低でも1枚や2枚はこういった違法切手が含まれているからです。切手カタログを見れば掲載されていないのは確認できるのですからきちんと整理さえしていればこんなことにはならないはずです。
具体的な実物をお見せしましょう。これは私が数年前に購入した美術切手コレクションに入っていたもので、もともとは某切手商が主催している、美術切手を定期的に頒布する会の頒布物です。この頒布会に加入していれば世界中で発行された美術に関する切手を漏らさず入手できる、というわけです。最初にこれを頒布した会社名は言いません(バレバレでしょうが)。おそらく頒布会に加入していた人が切手収集を終えるにあたって処分した過去の頒布物が、回り回って美術切手コレクションとしてまとめて売られ、それを私が購入したというわけです。ここにはソマリア名義で2004年2月10日付で発行されたと主張する小型シートがいかにも本物の切手であるかのように収められています。
何度も言うように、元を辿ればこれは某社が頒布した美術切手の一部です。特製リーフには番号まで書かれていて、いかにもこれがきちんとした美術切手コレクションの一部のような装丁となっています。ところがこんな切手はどの切手カタログにも掲載されていません。スコット、ミッヘル、イベール、それに場合によっては他のローカル専門切手カタログを参照してもいいのですが、少なくともこの切手が掲載されているカタログを私は寡聞にして知りません。なので私はリーフに鉛筆で『bogus』と書き加えています。もちろん中には、法的には正当な切手が本当に未掲載となっているケースもあるでしょう。ここが非常に厄介なところではあります。
以前、これを販売した会社が月刊誌の誌上で別の違法切手を販売していたので問い合わせたことがあります。しかしいくらこちらが問題点を指摘してもこれが違法切手とは認めません(まあ認めたら大変なことになりますが)。出どころを聞いたら10年以上前に当時のバイヤーより仕入れたものなので詳細は不明だというのです。相手の言い分を信じるとするならば、それが本当に存在する切手なのかをろくに確かめずに、時には専用のリーフを仕立ててまで会員に違法切手を売りつけていることになります。会員にしてみてればまさかそんな違法切手を売りつけられたと思わないでしょうから本物の切手と信じて自分の切手コレクションに加えます。数年後、数十年後に切手コレクションが処分されることで、このような形で切手市場に流入してくるのです。もちろん件の会社、グループと深い関係のある人はこのことを指摘できません。恥を知れ。
はっきり言います。売る側はわかっていてこうした違法切手を販売しています。彼らは入荷してしまった違法切手をなんとかしてカネに変えて手放そうと必死です。狙い目は今回のような、自動的に切手を送ってくる頒布会や、複数切手のまとめ売りです。今回、私が入手した経緯は後者です。美術切手コレクションとしてまとめ売りされていた中に入っていたのです。もちろん大半は本物の切手です。しかしこうした違法切手が含まれているのはもはや常態化しており、私もそれは承知で買っています。そもそも、この切手リーフが世に出回った経緯は前者に相当します。頒布会から送られてきた切手が自コレクションに編入されてしまい、それがあたかもババ抜きのように色々な収集家を転々としているのが現状です。しかし私のところに来たからにはもう次には行かせません。こういうのを集めて違法切手コレクションとして販売するのもそれはそれでアリかもしれませんが、結局は本物の切手と称して販売されるようになるだけでしょう。
もちろん売った側に大いに問題がありますし、はっきり言って詐欺と言われても仕方のない話と思います。しかしここではむしろ買う側の不見識を大いに問い正したいのです。不可抗力で入手してしまうことはあるでしょうが、大問題なのは収集家自身が、こういった違法切手の存在すら知らず、自分のコレクションにそういった異物が混ざり込んでいることを見抜けていないという事実なのです。少なくともカタログできちんと自分の切手を調べれば、違法切手の疑いがあるかはわかります(先ほども申し上げたように本当に未掲載という可能性はあるでしょうが)。ところがそういったことすらしていないか、切手カタログに掲載されていないことがおかしいという発想に至らないのです。これまでそういう切手コレクションに幾度となく遭遇してきました。せっかく苦労して切手カタログで調べているのに未掲載とか書いて保留扱いにしているのです。しかしいつまで経っても切手カタログには掲載されません。なぜならそもそも存在しない違法切手なのですから。
さらに付け加えましょう。こういった違法切手と、外貨目的で発行された切手代理発行エージェントによる切手を混同する輩がいます。しかし両者は似て非なるものです。後者も切手として実際に使われることは少ないかもしれませんが少なくともその国の郵政当局と代理発行契約を結んで作られた、切手カタログにも掲載される法的には問題のない正式な切手なのです。両者を混同して一緒くたに非難する論調には同調できません。もちろんエージェント切手に問題がないとは言いませんし、エージェントが大量に切手を発行することでその国が発行した切手の全体像がつかめなくなり違法切手というでっちあげ行為が横行してしまう余地を作っているという現実は存在します。しかし、だからと言ってエージェント切手の法的な正当性が損なわれるわけではありません。ここは冷静に区別しないと違法切手を製造する輩の思う壺です。
こういった違法切手が混ざってしまった切手コレクションは当然のことながら格が落ちます。少なくとも私は買い叩く材料とします。こういった違法切手を加えてしまった切手展の出品作品を見ることも後を絶ちません。こういうのは1970年代以降の、比較的最近の外国切手が含まれているテーマティク展示やフリースタイル作品で実によく見かけます。日本切手だけでない、世界中の切手で構成されているこうした作品で違法切手が一切入っていない作品は、それだけでも私の中では評価ポイントになります(それも寂しい話なのですが)。それだけ違法切手は蔓延してしまっています。もはや根絶は不可能でしょう。
しかし個人レベルではこうした異物を自分の切手コレクションから取り除くことは可能です。どうかこういうのをアルバムに整理したりするのはやめましょう。アルバムリーフ作るのも手間やお金がかかるのではっきり言って無駄になります。整理されるべきは本物の切手だけです。所詮、コレクションは自己満足ではあるのですが、一方で処分するときに騙し討ちのように違法切手を混ぜてコレクションの量を嵩上げして、少しでも高値で売ろうとする行為は万死に値します(既に人生の末期だから問題ない?そうかもねえ……)。そして良心の残っている切手商はこういう違法切手の販売を一切やめてください。それはいずれ郵趣界の衰退として跳ね返ってっくるブーメラン行為なのです。残念ながらこういうことを主張する収集家が少なくとも日本国内では皆無なのが非常に残念です。微力ながら今後も定期的に訴え続けていこうと思います。