昨年(2023年)6月19日に日本郵便とヤマト運輸が『持続可能な物流サービスを推進していくための協業』に関する基本合意書を締結したことは世間の耳目を集めました。
これに基づきヤマト運輸は小型薄型荷物を対象とした『ネコポス』を順次終了し、2023年10月1日から日本郵便の配送網を活用した『クロネコゆうパケット』を一部エリアで発売開始したほか、ヤマト運輸は『クロネコDM便』を今年(2024年)1月31日に廃止し、翌2月1日から日本郵便の配送網を活用した『クロネコゆうメール』を全国で発売開始しました。2025年2月までにヤマト運輸のメール便領域および小型薄物荷物領域の荷物全量を日本郵便の配達網で届けるという両社の協業は、達成に向けて順調に進んでいるようにも見えました。
ところが両社による世紀の協業が終わりを迎えようとしています。12月13日、ヤマト運輸が11月に小型薄物荷物領域の配達委託を停止したいと日本郵便に申し入れたと報じられました。この報道を受けてヤマト運輸は18日に声明を発表し、日本郵便とは協議中であって、配達委託を停止するという報道を否定しました。しかし日本郵便はこの申し入れはヤマト運輸側の一方的な事情であるとして、120億円の損害賠償を求める訴えを12月23日に東京地方裁判所に起こしたと発表しました。そして日本郵便は同日付の社員向け文書で、ヤマト運輸の利用客に営業攻勢を行おうと発破をかけました。完全なケンカ別れです。
ヤマト運輸はなぜ協業の見直しを打診したのか? その理由として同社は、配達までの時間が延びているためと説明しています。しかしこの言い分は個人的にかなり疑問なのです。なぜなら、ヤマト運輸にとって日本郵便は不倶戴天の競合相手です。当然のことながら相手のサービス内容や実力は十二分に研究済みのはずで、日本郵便の配送網を使ったらどのくらい時間がかかるかはよく知っているはずだからです。日本郵政の増田寛也社長は18日の記者会見にて、送達の速度に違いが出るのは両社で合意済みであると反論を行っておりますが、それはそうだろうという感想しか抱きません。当たり前の話です。
なので、配送時間が本当に今回の申し入れの原因なのだとしたら、ヤマト運輸はそんな基本的なことも把握せずに協業で合意したのかと心配になってしまうのです。さすがにそれは経営の見通しが甘すぎるというか、あまりにお粗末ではないでしょうか。
そもそもヤマト運輸は日本郵便との協業合意を受けて、今年1月31日をもって小型荷物の配達を委託していた個人事業主約2万5000人との契約を全て打ち切っているのです。あとは日本郵便に配達してもらうから君たちはもういいよ、というわけです。これについては配達員側からの猛反発を受けましたが、それでも契約終了を断行しました。そこまでしてヤマトは協業に活路を見出していたはずなのです(契約を切りたかっただけなのかもしれませんが…)。協業をご破算にして、小型荷物の配達は今後どうするのでしょうか?
そもそも今年8月にヤマト運輸は『こねこ便420』という、どう考えても『クロネコゆうパケット』や日本郵便の『レターパックライト』と競合するサービスを開始するというチグハグな対応を行うなど、ヤマト運輸の意図を訝みたくもなる動きを見せてはいました。
個人的に日本郵便はヤマト運輸に学ぶべきところが多いと日々感じています。荷物の配達予告などITシステム関連についてはもう比べようがないくらいヤマト運輸のほうが先行しています。それだけに、ここでヤマト運輸がこんな理由で協業を台無しにしたことに非常に驚き、また落胆しています。それ本気で言ってるの? と。いくら現場の能力が高いとしても、経営陣がこれでは会社が沈むのは時間の問題です。
配達員切り3万人 ヤマト、一斉に通告
(しんぶん赤旗、2023/8/8)
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik23/2023-08-08/2023080801_02_0.html
ヤマト委託配達員の契約終了、再就職難しい人も 労組は団交を要求
(日本経済新聞、2024/3/11)
https://digital.asahi.com/articles/ASS38633NS2MULFA00N.html
ヤマト・日本郵政、協業荷崩れ 配達時間を巡り両社に溝
(日本経済新聞、2024/12/18)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA183KR0Y4A211C2000000/
日本郵便社長「クロネコ客に営業攻勢かける」社内でヤマトに宣戦布告
(朝日新聞、2024/12/23)
https://digital.asahi.com/articles/ASSDT04ZYSDTULFA013M.html