デンマーク郵政『郵便配達店じまい』までの経緯

ポストノルド・デンマーク(PostNord Danmark、デンマーク郵政)はこのほど、同国における郵便配達を2025年で終了し、以降は小包配達に注力することを明らかにしたニュースは日本でも大きな話題となり、日本でも同様にいずれは手紙の配達がなくなるのではないかと推測する方々も多いようです。デンマークと日本では事情が色々と異なるので単純に比較することは難しいと感じますが、とはいえ郵便が右肩下がりという事情は世界各国共通なので、時期が違うだけで大まかな未来は同じなのではないかという危惧もわからなくはありません。そこでポストノルド・デンマークがこれまで歩んできた『郵便配達店じまい』までの経緯を、ごく簡単ながら書いてみようかと思います。

そもそもデンマークで郵便事業が始まったのは1624年に遡ります。1995年には国が全株式を保有する会社として政府の郵政部門が独立し、2002年に公開有限会社になり、2005年には一部株式が投資ファンドなどに売却されます。2009年にスウェーデン郵政と経営統合してポストノルドとなり、ポストノルド・デンマークがデンマークにおける郵政事業を担うこととなりました。

さてこのデンマークにおける郵便物のピークは1999年で、16億通が最大値でした。しかしその後は減少続きとなり、2016年には3.7億通と20年も経たないうちに4分の1以下に減少。現時点では2000年と比較して実に9割減となってしまいました。当ウェブログの読者なら既にご承知のことと思いますが、こうした状況の中、ポストノルド・デンマークは経営立て直しのために色々と策を講じることとなります。それは郵便サービス低下の歴史でもありました。

デンマークにおいて郵便物が短時間で急激に減った一つの理由に、同国が世界に先駆けて1994年より推し進めた電子政府構想が挙げられます。2014年に全国民が『e-ボックス』と呼ばれる電子私書箱の所持を義務付けられ、2015年には公的機関との文書のやり取りは電子通信のみ可能となりました。その結果、現時点では国民の95%が電子私書箱をを所持しており、諸事情により電子私書箱を持てない271,000人は役所との連絡手段を未だに物理的な公共サービス郵便に頼ってはいますが、これでは郵便物が減る一方なのは当たり前です。ポストノルド・デンマークは『e-ボックス』の運営会社を決済会社Netsと共同で所有している立て付けにはなっていますが、まあ郵便物の減少を補えるほどの利益はないでしょう。この間にもポストノルド・デンマークの郵便ポストや従業員はどんどん削られていきます。

苦肉の策としてポストノルド・デンマークは郵便配達サービスの削ぎ落としに走ります。まず2016年には普通郵便の土曜日配達(週6日配達)をやめ、祝日以外の月~金曜日の週5日配達となりました。この週5日配達の維持は欧州連合(EU)の『郵便サービスに関するEU指令』でも定められていますが、2018年にはここにも手を付けます。全国民を5つのグループに分け、月曜日から金曜日まで毎日、一つのグループに対してのみ配達を行うという苦肉の策を講じたのです。これでは一人の国民にとっては週に1回しか配達してもらえないわけですが、国全体では週5日間どこかで配達しているので問題ありません、という、どう考えても詭弁でしかない言い訳をはじめたわけですが、逆に言えばそれだけもう限界だったということです。

また配達期間も通常郵便に関しては2016年には3日後から5日後へと繰り下げ、翌日配達を約束していたA Mailは廃止され、料金を2.7倍にしたクイックレターを新たに開始しました。

2018年時点で国内向け封書の最低料金は9デンマーク・クローネ(当時のレートで約153円)でした。それが毎年のように値上げを行い、2024年1月1日には国内向け封書が25クローネ(同約570円)、国外25g未満が50クローネ(同約1,140円)という、おそらく世界で最も高い部類に入る郵便料金に改定され、しかも2023年以前に発行された切手については額面に付加価値税が含まれていないという理由で2024年からは国内への郵便には使用不可、2025年からは国際郵便にも使えなくなってしまいました。

とはいえデンマークは2023年まで無額面切手を導入しておらず、郵送してもらうため要する金額がいくらになろうが、必要だけ切手を貼り足せばいいのでは…? と日本人の感覚としては思ってしまいます。考えてみるとよくわからない無効化なのですが、まあ会計方式か何かに抵触するんでしょう。

こうしてみるとポストノルド・デンマークはピークの1999年から四半世紀を経て着々と郵便配達の全面終了に向けた準備をしてきたことがわかります(もちろん当の本人たちは終了ではなく、できるかぎりの延命を意図していたのでしょうが)。個人的には2024年の大幅値上げの時点で既に郵便配達の永続はあきらめ、2年後の店じまいを見据えたモードに切り替わったと推測しています。

諸外国の郵便サービスについて
(総務省情報通信審議会 – 郵便局活性化委員会事務局)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000588249.pdf

JP総研レポート[特別号](18.6月発行)
(日本郵政グループ労働組合 – JP総研)
https://www.jprouso.or.jp/system/servlet/yusei.UserPage?pname=index&dir=lab&sub=report

Top stamp stories of 2024
(Linn’s Stamp News、2025/1/6)
https://www.linns.com/news/us-stamps-postal-history/top-stamp-stories-of-2024