万国郵便連合(UPU)は9月24日より、スイスのジュネーヴにて緊急会議を開催しています。UPUの緊急会議は、1900年(スイス)、2018年(エチオピア)に続き史上3度目のことです。内容はもちろん、昨年10月にアメリカのドナルド・トランプ大統領が、「中国からの郵便物が割安に設定されているせいで、アメリカ郵便公社(USPS)の利益が奪われている!」として、自分たちで料金を決められるようにしない限り2020年1月1日までにUPUを離脱すると宣言したことを受け、UPUのルール変更を話し合おうというものです。
About Congress – UPU
http://www.upu.int/en/the-upu/congress/about-congress.html
現在のUPUのルールでは国際郵便を送る際、発展途上国からの郵便料金は安く、アメリカのような先進国からの料金は高めに設定されています。これは発展途上国に対する経済支援の意図があります。しかし、現在の設定は1960年代に作られたもので、アメリカにとってもはやGDP世界第2位の経済大国となった中国が未だにこの優遇措置を享受していることは容認し難い事態でした。加えてここ10年ほど、インターネットによる電子商取引が発展し、国家間の郵便物が減る一方、荷物の流通量が爆発的に増えたことも、USPSの体力を奪う一因となりました。
現在、アメリカ政府によれば、USPSはこの優遇措置によって1年間に3億ドル(約320億円)もの損害を被っています。ただでさえUSPSの台所事情は火の車で毎年値上げを繰り返している上、トランプ政権になってからは米中貿易戦争と呼ばれるほど中国に対する姿勢を硬化させており、郵便も例外ではないというわけです。
BBCニュース – トランプ米大統領、万国郵便条約からの離脱を表明 中国優遇に不満
https://www.bbc.com/japanese/45898116
アメリカの要求は、国外より入ってくる2kg以下の荷物について独自に料金を設定できるようにせよ、というものです。ちなみに、2kg以上の荷物については既に独自に設定することが可能となっています。そしてこの要求が受け入れられなければ、UPUを離脱し独自に料金を設定すると。しかし離脱手続きには1年かかるため、UPUはそれまでにアメリカを思いとどまらせるような新しいルールを設定する必要に迫られたのです。
UPUから離脱したからといって国際郵便が送れなくなるわけではありません。現に、中華民国(台湾)はUPUに加盟していませんが、国際郵便を相互に送ることは可能です。しかし、世界最大の郵便取扱量を誇るアメリカがUPUを離脱するとなると、その影響はとてつもないものです。UPUにとってアメリカの離脱はありえないことです。かと言って、アメリカの言うように各国が国際郵便の料金を自由に決められるようにルールを改正した場合に生じる混乱も考えなければいけません。
そこで今回の特別会議では、以下の3案が提案されました。
オプションA:現行ルールをいくつか修正。
オプションB:2020年より、国内郵便料金を上限として料金を決定可能とする。
オプションC:各国は独自の料金を設定することが可能になるが、2025年までは上限が設けられる。
このほか、オプションCの修正版として、アメリカには2020年に料金設定を認める一方で、他の国にはさらに長い移行期間を設けるという案や、様々な案が取り沙汰されました。
If the Trump Administration doesn’t get what it wants, the United States is set to withdraw from an arcane treaty that governs global mail delivery
https://time.com/5680413/trump-universal-postal-union/
今回の特別会議には、アメリカ代表としてピーター・ナヴァロ通商担当大統領補佐官が参加しました。アメリカにとって一番いい案はオプションBでしたが、これは24日の採決で賛成57、反対78、棄権9票で否決されました。25日には別の、アメリカが料金設定を可能とする案が圧倒的多数で可決されたとのことですが、詳細はよくわかりません。しかし可決後、ナヴァロ補佐官やミーガン・ブレナンUSPS総裁がこれを歓迎する声明を発表しており、これにてアメリカのUPU離脱はひとまずなくなったということではないでしょうか。
UPU endorses compromise to let United States set prices for incoming foreign mail
https://www.linns.com/news/postal-updates/upu-endorses-compromise-to-let-united-states-set-prices-for-incoming-foreign-mail