物理的な記念品の需要は健在

4日に新発売されたアレ、お買い求めになられた方はいらっしゃいますでしょうか?

何のことかって、もちろん『鬼滅の刃』の最終巻(第23巻)のことです。ちょうどこの日から東京・有楽町の東京交通会館で第58回『世界の貨幣・切手・テレホンカードまつり』が開催されておりまして、お昼から20分弱お買い物をして、ふと1階にある三省堂書店を見たら山積みになっていたので、そうだ買っておこうと思ったんですよねー。もちろん通常版ですけど。

さて、ここで『切手のことじゃないんかい!』というツッコミをされた方はいらっしゃると思いますが、『4日発売の楽器シリーズ第3集のことじゃないんかい!』という具体的なツッコミをされた方がどのくらいいるか、どうか…。まあそれはともかく、この話題、切手に全く何の関係ないというわけでもないと思っています。

4日は最終巻を求めて朝から全国各地の書店には長蛇の列が形成されたことを報道でご存じの方も多いかと思います。またこの日には主要新聞5紙に大々的に広告が掲載されたため、新聞を求めて売店巡りをする方もいらっしゃったようです。このニュースを見て思ったのがですね、ああ、物理的なモノを所持することに意味を見出す人ってまだまだ多いんだな、ということです。だってコミックスは電子版でも読めますし、新聞広告だって探せばツイッターとかで画像をアップされている方がいると思います。むしろそれで広告掲載の件を知ったという向きも多いでしょう。見るだけならそれでいいはずなんです。

ところが、見るだけでは飽き足らずに実物がほしいと思う方がこれだけいる、という事実は決して軽くはないと思うのです。

考えてみればここ四半世紀は物理的ではない、電子的なモノを収集するという行為が市民権を得てきた時代だと思います。一番有名なのはポケモンでしょうね。今やソーシャルゲームでカードを集めるのはもう普通に見られる光景です。しかし、記念品としての物理的なモノにはまだまだ需要があります。そういえば新聞の号外も配布されれば我先にもらいに行きますよね。あれだって新聞社によっては公式サイトで同じものをPDFで配布しています。そう考えると、物理的な収集対象の代表格とも言える郵便切手にはまだまだ世間の需要があると思います。そんなことを考えながら、私は今回のニュースをほくそ笑みながら聞いていました。

従来、日本においては国家レベルの記念事項は特殊切手として発行されてきましたが、それ以外のローカルな出来事の記念事項についてはここ数年、もっぱらフレーム切手として数多く発行されるようになりました。フレーム切手を活用することによって、地域密着型な『記念切手』を通常の特殊切手よりはるかに手軽に作ることができるようになったわけですね。ニュースで『○○の記念切手発行』と報じられておきながら内実はフレーム切手であったりするわけですが、郵趣家からすれば記念切手とフレーム切手は別物なわけです。しかし、日本郵便は特に両者を区別するようなことはしていません。事実上、記念切手の概念を大幅に拡大しているわけで、小さな記念品需要をしっかり頂戴して稼がせていただく、実に理にかなった戦略であることがわかります。

もちろん皆が皆、物理的なモノに価値を見出しているわけではなく、冒頭の『鬼滅の刃』最終巻に話を戻せば、電子版を読めばいよいのになぜわざわざ並んでまで紙の本がほしいのか、収集家の思考は理解できないという人もいるわけです。それはもう、価値観の違いだからしょうがないし、そう考える人がいて当然です。

デジタルに対応した切手収集というものも始まってはいます。昨年よりオーストリア、クロアチア、そして国際連合が立て続けにブロックチェーン技術を活用したクリプト切手というものを発行しています。各切手に切手の画像が1枚おまけに付いており、これを集めようというわけです。もちろん画像そのものは切手ではないのですが、今はまだ発売すればそれなりに話題になって売れているようなので、当分は追随する国があるでしょう。日本は出さないでしょうけど。

将来、日本で、アイスランドのように最後の切手が発売されるということになったら売れるのかなあ。