見返り美人・月に雁は切手界の王・長嶋

このたびクレタパブリッシングより『昭和40年男』2月号が発売されました。この表紙を見て思ったことは、拡大するぶんには切手の額面部分に抹消線入れなくていいんだなぁ、ということもあるのですが…。

何より改めて実感したのは、『見返り美人』と『月に雁』って、切手の世界でいう王と長嶋なんだなぁ~! ということです。

圧倒的な知名度を誇り、高い人気を誇るという点では、両者はとても似ています。プロ野球には興味がないけれど、王貞治と長嶋茂雄(以下、二人のことをONと表記)の名前はどこかで聞いたことがあるという方も多いでしょう。切手収集と言えば、世間で出てくるのは相変わらず『見返り美人』と『月に雁』なのでしょう。この表紙はそのことを如実に物語っています。

それはそれでいいのですが、しかしより多くの方々に切手収集に興味を持っていただくことを考えた時、いつまでも切手のイメージがこの2つだけでいいのだろうかということを考えなくもないのです。ということを以前に誰かと話した記憶があるのですが。

別に、『見返り美人』と『月に雁』がダメだと言っているわけではありません。これらの切手をメインに集めて研究されている方もいらっしゃるでしょう。しかし、切手収集家の全員がこの2枚の切手に大きな関心を寄せているわけでもありません。ONは確かに偉大な野球選手ではあったけれど、野球ファンの全員がその二人に固執しているわけではないというのと同じことです。切手の世界というのは本当に幅が広くて、奥が深いのです。にもかかわらず、世間の切手収集に対するイメージが、70年以上も前に発行されたこの2枚の切手で止まっているのなら、私はそれを大変残念に思います。プロ野球の場合はそうではないですね。常に新しいヒーローが誕生し、その存在が世間に浸透しています。

それで、本文を読み進めていくと、漫画『ドラえもん』単行本第9巻に収録されている、コレクションに関するエピソードが紹介されていました。冒頭でスネ夫が1万8000円で買った『月に雁』をみんなに見せびらかすというものなのですが、実は私はこの話で世の中に切手収集という趣味があることを知りました。私にとっての切手収集のきっかけは藤子・F・不二雄先生なのです。

私は雑誌のタイトルにもなっている『昭和40年男』とは一回り以上あとの世代ですが、しかし本文中で書かれているような、小学生時代の放課後の切手交換などを体験したギリギリ最後の世代なのかもしれません。これはノスタルジックな気持ちに浸ることを主題とした雑誌なので、これでいいのですが、しかし今の子達にも同じような体験をしてもらいたい、という主張がもしあれば、私はそれは違うよと答えるでしょう。収集のシーンは時代によって変化します。2021年の事情は昔とは違います。その時代にあった切手の魅力の伝え方、集め方のアドバイスというものがあります。それらをプレゼンできる手段が充実していないのが今の日本の郵趣界が抱える弱さでしょう。