23日午前中に搬入が無事に完了したようなので情報を公開しますが、25日より横浜で開催予定の『日本国際切手展2021』に、一昨年の2019年秋に開催された『全国切手展』(JAPEX)に出品した『アラブ土侯国切手の実逓使用例とその中身』を非競争部門にて復活展示することといたしました。2019年のJAPEX以降は封印していたのですが、せっかくの機会と考え、一切手を加えずに出品することとしました。なので2年前に浅草でこの作品をご覧いただいた方は、また同じ作品を目撃されることになります。
現在のアラブ首長国連邦(UAE)を構成している7首長国は1960年代から70年代前半にかけてそれぞれ独自に切手を発行しており、そのうち5カ国は外貨獲得を目的として実際の必要以上に大量に切手を発行しました。これらは今日、土侯国切手と呼ばれ、長く収集家に忌避される時代が続きました。切手収集家にはあまりに有名な話であり、こうした事情は改めて説明する必要もないかと思います。
収集家に忌避されたとはいえ、各首長国が国外企業と契約して作らせた法的には問題のない切手であり、何より当時、アジュマーンを除く6カ国は万国郵便連合(UPU)にも加盟していました。なので国際郵便にも使えた正規の切手であることは歴史的な事実であって、今回の出品物では当時の実逓便をいくつも展示しています。
にもかかわらず、これは日本国内・国外を問わないようですが、中には『土侯国切手は郵便には使えなかったラベルである』と誤解している人(収集家であるかないかを問わず)が未だにいらっしゃいます。しかし実際には使えたのであり、微力ながら、こうした誤った風説を叩き潰すために作ったのがこの作品です。本当に、目的はそれだけです。
とはいえ土侯国切手が使用されたカバーは用途が非常に限られていたのも事実です。今日残されている土侯国切手のカバーは差出人が各首長国の郵政部、宛先が郵趣関係の個人や団体にほぼ限られています。各国が発行した切手を宣伝・販売したり、注文を受けた切手を送付するために世界中に出した郵便物に土侯国切手が使われていた、という構図です。切手の販売のために切手を作ったと言ってもいいでしょう。
ここで疑問が浮かび上がります。それ以外の用途で土侯国切手が使われた郵便物はないのか? 残念ながら私はこれを見つけられていません。ですが、土侯国切手が使われていない土侯国発の郵便物はあります。前置きが長くなりましたが、それをご紹介しましょう。
これは1972年5月、シャールジャからイギリスに宛てられた郵便物です。当時既にUAEは独立していましたが、UPUに加盟したのは1973年3月末で、それまでは各首長国が引き続きUPUに加盟していました。何よりUAEが独自の切手を初めて発行したのが1973年1月なので(一部でUAE加刷切手はあり)、1972年の時点では土侯国切手か、スタンプレスで送るしかありませんでした。
具体的には、かつて存在したグリンドレーズ銀行(Grindlays Bank)のシャールジャ支店からイギリス本国に宛てられたものです。まさに民間同士の郵便物ですね。よく見るとシャールジャの郵便局に私書箱まであったことがわかります。切手は貼られておらず、メータースタンプにはU.A.Eと書かれていますが、書留のラベルにはやはりシャールジャと書かれています。私がこれを今回の出品作品に加えなかった理由は、土侯国切手を使ったカバーではないからです。
土侯国から外国への郵政部絡みではないカバーは他にもたまに見かけますが、いずれもスタンプレスか、土侯国切手ではない(まともに発行された実用的な切手とみなされてスコットカタログにも掲載されている)切手が使用されています。やはり土侯国切手は土侯国切手販売のために作られた切手だったのでしょう。そういう意味では土侯国切手が『使用用途が事実上制限されていた切手』と呼ぶのは正しいと思います。しかし何度も申し上げますが、ひとたび外国宛てに差し出されればきちんと配達された切手なのです。
土侯国切手のカバーなんぞebayに行けばいくらでも見られますが、日常で実物を見る機会はそうないと思います。日本国際切手展にお出かけの際にはぜひともご高覧賜りたく、よろしくお願いいたします。このほか文献部門に同人誌『現代切手』を出品しており、アジア展初出品となります。