ウクライナ戦争が長期化し、報道に辟易されている方もいらっしゃるかと思います。最近の切手の話題を取り上げるとどうしても最新の世界情勢に触れることになります。自国が発行する切手が売れることを期待して、収集家の耳目を集めるという観点から時事ネタを取り上げる傾向があるのは今も昔も変わりません。スポーツ大会、政治的な事件、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の大流行さえそうです。それらは今までもこのウェブログで幾度となく取り上げてまいりました。ここはひとつニュースではなく、あくまで切手に関する読み物と割り切っていただければ有り難いところなのですが。
さて先日もこのウェブログで取り上げた、ウクライナ郵政が3月上旬に実施した切手コンクール『くたばれ!ロシア軍艦』最優秀作品の切手が4月12日に発売され、現地の郵便局で入手された方による写真がSNSなどでも取り上げられています。他でもないウォロディミル・ゼレンスキー大統領がこの切手と初日カバーと思しき封筒を持っている写真も大統領のインスタグラム公式アカウントに投稿されました。このフレーズは元々、開戦当日の2月24日、黒海に浮かぶウクライナ領のズミイヌイ島(スネーク島)をロシア軍が攻撃し降伏を要求した際、ウクライナ兵士が「くたばりやがれロシア軍艦」と放ったことにならったものです。島を守っていたウクライナ兵士13人はいったん全員が死亡したとゼレンスキー大統領も発表していましたが、2月28日にはこれは事実ではないとウクライナ当局が訂正し、実際には抵抗した後に投降しましたが3月24日に両国の捕虜交換で解放され、後日その抵抗が讃えられ表彰を受けています。
これはウクライナ郵政によるニュースリリースから引っ張ってきた切手画像です。なにぶん、まだ手元に実物がありませんので…。額面はF(ウクライナ国内への書留便、重量50gまで、現在は23フリヴニャ相当)とW(国外への定形郵便を非優先で、重量50gまで、現在は1.5米ドル相当)の2種類があります。迫りくるロシア軍艦にウクライナ兵士が中指を立てる姿を描くという、切手としては異例の意匠となっています。特にW切手は国外向けなので、ロシアへの挨拶の手紙にも使えます、などとウクライナ郵政が表明していたりもしました。
ちなみに切手化に際して軍艦にロシア国旗が描き加えられました。これがボリス・グローエ(Boris Groh)氏による元の絵です(画像はウクライナ郵政のニュースリリースより)。
切手コンクールの作品募集時には、ゼレンスキー大統領がロシアのウラジーミル・プーチン大統領をお尻ペンペンしている例もありました。
この切手が14日になって俄然注目されたのは、発行翌日の13日にウクライナ国防省がロシア黒海艦隊旗艦の巡洋艦モスクワをミサイル『ネプチューン』で攻撃し、ほどなくしてロシア国防省も巡洋艦モスクワについて『爆発による重大な損傷』を被ったことを認めたという報道がなされたからです。理由はともかく巡洋艦モスクワが大被害を受けたということに変わりはなく、まさにこの『くたばれ!ロシア軍艦切手』が発行された翌日の出来事ということで、不思議なめぐり合わせとなったからです。
というような話題をツイッターで散見したため、確かに興味深いということで私もこの話題をツイッターで取り上げてみたところ、かなり注目されたようです。何度も言いますが私が発端というわけではないのですが、まあタイミングが良かったんでしょう。
確かに、ウクライナで4月12日に『くたばれ!ロシア軍艦』切手が発行された翌日にロシア黒海艦隊旗艦の巡洋艦モスクワが『重大な損傷』を被ったというのは不思議なめぐり合わせやね。
※画像はウクライナ郵政、ゼレンスキー大統領インスタグラムより#StandWithUkriane#StampsForUkraine pic.twitter.com/kSAW9dRHtm— 現代切手📨切手収集 (@ModernestStamp) April 14, 2022
14日にはウクライナ郵政のイゴール・スメリャンスキー(Ігор Смілянський)総裁が、軍艦部分にウクライナカラーのバツ印を描き加えた画像をFacebookに投稿しています。
ともあれ気になるのは入手の方法です。実際、上記ツイートにはこの切手を入手したいという声も集まっています。私も例外ではなく、先日よりこの切手を入手するべく色々と動いてはいますが、色々と困難です。平時であればネット経由でウクライナ郵政に直接通信販売をお願いすることができるのですが、現在のところは機能していないようです。とはいえウクライナの郵便そのものは基本的に機能しており、首都キーウや西部リヴィウの郵便局は正常に動いているようです。なので現地の方々より購入して国際郵便で送ってもらうことになります。
入手方法はともかく、現在ウクライナ上空は旅客機が飛んでいないため、まずポーランドまで陸路で運ばれ、そこからロシア上空を回避して航空便で、あるいは船便で日本に届けられることになるでしょう。どんなに早くても1カ月はかかるはずです。いずれは日本国内の切手商が仕入れることになるでしょうが、それは半年くらい先の話ではないでしょうか。ここまで外国切手が話題になることも少ないので、関係各社は大変でしょうが日本への少しでも早い輸入をお願いしたいところではあります。
正直なこと言えば今回のこの切手の意匠が万国郵便条約に抵触するのではないという懸念を抱かないこともないのです。同条約は、郵便切手について、第八条で『政治的性質又は個人若しくは国を侮辱する性質を有してはならない』と定めています。まあ今までも各国からこうした他国を非難する切手は出ていますし、ウクライナの場合は軍事侵攻を受けている側ですし、万国郵便連合としては黙認するしかないでしょうね。
<以下、参考リンク>
◆ハフポスト(2022/3/30)
「ロシアの軍艦くたばれ」と告げたウクライナ兵、故郷に戻って表彰される
https://www.huffingtonpost.jp/entry/ukrainian-sailor-heros-welcome_jp_624395fae4b0d7ac3d530838
◆ウクライナ郵政ニュースリリース(2022/3/12)
The sketch for the postage stamp “Russian warship, fuck you!” chosen
https://ukrposhta.ua/en/news/57585-the-sketch-for-the-postage-stamp-russian-warship-fuck-you-chosen
◆ウォロディミル・ゼレンスキー大統領によるインスタ投稿(2022/4/13)
https://www.instagram.com/p/CcSMhDGMuOg/
◆ウクライナ郵政のイゴール・スメリャンスキー総裁によるFacebook投稿
・切手デザインコンクール開催告知(2022/3/2)
https://www.facebook.com/ukrposhtaceo/posts/5507424725953818
・切手が発行された当日の郵便局の様子(2022/4/13)
https://www.facebook.com/ukrposhtaceo/posts/5622252001137756
・ロシア軍艦撃破(2022/4/14)
https://www.facebook.com/ukrposhtaceo/posts/5627016193994670