『日本万国博切手資料集』

このたび石田徹氏が著された『日本万国博切手資料集』がすごいらしいという話は聞き及んでいました。そこでさっそく入手して中身を拝読したのですが、とてつもない内容でした。

高度経済成長時代の1970年、大阪で日本万国博覧会(通称:大阪万博)が開催され、世界各国から多くの記念切手が発行されたほか、会場内には期間限定の郵便局も設置されました。本書はこれら郵趣にまつわる事物を広く深く紹介するものです。というのが簡単な説明になりましょうが、あまりに深すぎるのです。

当時は休戦オマーン、現在のアラブ首長国連邦における各首長国が切手代理エージェントに大量の切手を発行させる、いわゆるアラブ土侯国切手が全盛期の時代でした。当然のことながら経済成長著しい日本もその題材となり、大阪万博の切手も大量に発行されたわけですが、今になって見返してみると決して軽んじられるものではない、むしろ当時の雰囲気や情報を伝える貴重な資料であるとういことを当ウェブログでは何度も書いてきました。私のように大阪万博の開催時にはまだ生まれていなかった者にとってはなおさらのことです。

本書ではそんな認識は当然だと言わんばかりにアラブ土侯国切手やイエメン王国の切手も普通に掲載されているだけでなく、『State of Oman』名義のオマーン亡命政権切手、はたまたナガランドといった完全でっち上げ国家の切手が疑国として掲載されていました。本書を読んでいる最中に『これはすごい!』と10回はつぶやいたと思います。これは誰にでも出せる本ではありません。少なくとも、かつて『ブラック・スタンプ追放運動』なる珍妙な運動に関わった組織には断じて無理です。

本書は実際に会場に足を運ばれた方が書かれているという点が重要だと思います。本書まえがきには現地を何度も訪れたからこそ書けるものがあったという趣旨のことが書かれていますが、先程も申し上げたように大阪万博は開催からもはや半世紀以上が経過しています。いくら当時が切手ブームのただ中であったとはいえ、会場を何度も訪れ、今日まで切手に関心を持ち続け、執筆という形で記録を残すことのできる方というのは相当に限られるのではないかと思っています。本書はこれから先、大阪万博に関する研究を行う上で貴重な資料集として使用され続けることになるでしょう。

と同時に、今現在起こっていることの記録をきちんと後世に残すことの重要性も再確認した次第です。つい最近まで続いていた新型コロナ禍も、もう既に発生初期のことについては人々の記憶から薄れ始めています。その際にどういった切手が発行され、どのように展開していったのか、そういったことも今のうちにまとめておかなくてはなりますまい。