おちおち切手を展示できない時代?

アメリカにおける反人種差別運動が世界中に広がり、様々な事態を引き起こしていることは皆様、ニュース等でご存知のことかと思います。もちろん人種差別は害悪であって、根絶しなければならないものであるということ自体は論を俟たないのですが、ここにきて色々な動きが出ています。

アメリカでは初代大統領ジョージ・ワシントン、第3代トーマス・ジェファーソンの銅像や記念碑が倒されています。生前、黒人奴隷を所有していたというのがその理由です。また第7代大統領で黒人奴隷農場主でもあったアンドリュー・ジャクソンの銅像が倒されかける事件が起こり、連邦財産破壊の容疑で4人が訴追されました。この3人の元大統領は1938年にアメリカから発行された普通切手『大統領シリーズ』の1、3、7セント切手に描かれています。

またニューヨークのアメリカ自然史博物館にある、第26代大統領セオドア・ルーズベルトの銅像が撤去されることとなりました。馬に乗りアメリカ先住民とアフリカ系の人物を従えているその姿は、植民地主義や白人優位主義の象徴だというわけです。彼は『大統領シリーズ』の30セント切手に描かれています(馬には乗っていません)。

アメリカ以外でも、オーストラリアのシドニーではジェームズ・クックの像が落書きの被害に遭っています。アボリジニ虐殺や奴隷制の象徴だというわけです。これは、2020年3月のニュージーランドにて開催予定だったアジア切手展の記念切手で、クックが描かれています。シエラレオネ名義の発行です。

そして先ほど、アメリカのミシシッピ州議会が州の旗を変更する法案を可決したとのニュースが飛び込んできました。同州の旗は全米で南部連合のシンボルを含む最後の州旗であり、これを取り除こうというわけです。これら銅像の展示や旗のデザインについては以前から論争のあったところではありますが、さすがに行き過ぎではないかという声もあり、中にはこれはアメリカ版の文化大革命だという声すらあります。長年の恨みつらみはあるのかもしれませんが、しかし銅像を破壊したところで何の解決にもなりますまい。

とはいえ、この一連の反人種差別の流れは一部で先鋭化しつつ、思いもよらなかった方面にまで影響を及ぼしつつあります。今回ここで紹介した切手を切手展で展示したら差別主義者のレッテルを貼られて展示が許可されなくなった、という事態が起こらないことを切に願うばかりです。いくらなんでも大げさだよ!と思われるかもしれませんが、2018年にマカオで開催されたアジア展で台湾に関する作品が覆い隠された例もあります。自主的であれ、外からの圧力によるものであれ、実行委員会が不適当と判断すればこういう事態もありえるのです。