ソビエト連邦の崩壊は、構成していた諸国の郵便制度にも影響を及ぼしました。例えば旧ソ連で使われていた普通切手に自国の国名や新しい額面を加刷した切手というものが多く残されています。国家崩壊から新国家樹立という大混乱の中、自国の切手をすぐに十分に用意することなどできるわけもなく、各地の郵便局に大量に残っていたであろう旧ソ連の普通切手を再利用するというのは窮余の策としては致し方ないことではあります。しかしこの加刷切手は大変厄介な存在です。何が本物なのかよくわからないからです。
例えばこのカザフスタン名義の加刷切手。スコットカタログにはこれらの切手は載っていません。冒頭部分に『カザフスタンのアルマアタの郵趣クラブは、旧ソ連の切手に加刷した様々な切手は一般的に入手できず、また実際の郵便料金に対応した額面でもなかったと発表している』と不掲載の理由が書かれています。この文章を文字通り解釈すればカザフスタンの郵政当局者の見解ではなくあくまで切手愛好家の見解を採用したに過ぎないことになります。
そしてこれはタジキスタンとウズベキスタン名義の切手ですが、こちらはスコットカタログに掲載されているのです。
スコットカタログに加刷切手が掲載されているのはこの2カ国の他にはキルギスだけ。ロシアなどは発行しないことになっていますが、しかし中央政府から十分な切手が来なかった地方自治体で独自に加刷された切手が作られ、実際に郵便に使われたらしいというのが事態を一層ややこしくしています。郵便への使用実績があっても中央政府の承認がない切手が本物の切手と呼べるのか? という問題や、中には完全なるでっち上げの加刷切手も含まれており、一体何が本物と呼べるのかわからず、スコットカタログではペンディング扱いとなっています。スタンレー・ギボンズの切手カタログには一部が掲載されているようです。
旧ソ連切手への加刷は魑魅魍魎とした状況ですが、しかし日本でもこれら加刷切手を熱心に集めている切手収集家はおられます。数年前に紹介した『テルアビブ切手展記念』の加刷切手も、そんな加刷コレクションの中からご紹介したものです。私のような素人がうっかり手を出すのは危険な、あまりのめり込まないほうが良いジャンルなのかもしれません。
Overprinted Soviet stamps: quest or quagmire?
(Linn’s Stamp News、2002/8/12)
https://www.linns.com/insights/stamp-collecting-basics/2002/august/overprinted-soviet-stamps–quest-or-quagmire-.html