靴デザイナーのスチュアート・ワイツマン(Stuart Weitzman)が自身の所有する切手・コインの珍品3点をサザビーズのオークションに出品し、8日に入札が行われました。その中には世界でただ1枚しかなく、最も高価な切手とも称される『英領ギアナ1セント・マゼンタ』もありました。事前の見込みでは落札額は1000~1500万ドルでしたが実際には830万7000ドルにとどまり、もう1点の『宙返りジェニー』田型ブロックも予想より下だったため、結果を報じた中には期待はずれという論評もありました。私から見れば十分高額なのですが、まあ1セント・マゼンタは新記録を期待されてる面もあるんでしょう。前回の948万ドルよりも下でしたからね。
結果はどうあれ注目すべきは落札者で、イギリスの老舗切手商であるスタンレー・ギボンズが落札したことを自社のツイッターアカウントで発表しています。これでイギリス王室の切手コレクションと合わせて、今までに世界で発行・流通した全ての郵便切手がイギリスにあるということになるのでしょうか。これまで幾人もの手に渡り、様々なドラマを引き起こしてきた1セント・マゼンタは、ようやく安住の地を得たのかもしれません。表現が適切かどうかはわかりませんが、ふさわしい場所に収まったんじゃないでしょうか。
Today we were the successful bidder of #BritishGuiana 1c Magenta & it was purchased at #auction total of $8.3m
As well as making it available for viewing @ at 399 Strand, its our intention to make it available for all to own a piece
Visit https://t.co/av07ZkHVNT for more. pic.twitter.com/r8AnvH7SSB— Stanley Gibbons (@StanleyGibbons) June 8, 2021
スタンレー・ギボンズは1セント・マゼンタの所有権について面白いことをするつもりのようです。Linn’sの記事などを読む限りでは所有権を細分化して一般に販売する意向のようで、スタンレー・ギボンズ自身が開設した専用サイト(https://www.1c-magenta.com/)にも所有権を『民主化』すると書かれています。要するに証券化して販売するということなのでしょうか? 最新の情報をメールで受け取れるようにもなっているので要注目ですね。
Legendary treasures sell briskly, but stamp results fall short of hopes
(旧記事名)British Guiana 1¢ Magenta, Jenny Invert plate block sell below preauction estimates
(Linn’s Stamp News、2021/6/8)
https://www.linns.com/news/world-stamps-postal-history/british-guiana-1-magenta-jenny-invert-plate-block-sell-below-preauction-estimates
さて、世界で1枚しか現存していないこの切手については過去、格好の『切手の切手』の題材になってきました。英領ギアナは1966年に独立しガイアナ共和国となりましたが、ガイアナ名義で発行される切手の切手であれば、正当性もあるというものです。
これは2014年8月27日付で発行されたガイアナ名義の切手で、まさに1セント・マゼンタ切手を題材としています。ちなみに前回、1セント・マゼンタ切手が競売にかけられたのは2014年6月17日だったので、それから約2カ月後ということになります。4種のシートが発行されましたが、そのうちの1種がこれです。
2014年に落札したワイツマンは数多くの人が切手を見られる機会を積極的に作ってくれました。スタンレー・ギボンズも可能な限り公開する意向と報じられていますし、引き続き機会があれば見たいという方は収集家でなくとも多いと思います。しかし1セント・マゼンタ切手を写真で見る限り、だんだんと印刷が薄くなっているようにも思います。残念ですが、これは印刷物の宿命です。
何しろ1セント・マゼンタ切手が製造されたのは1856年、もう160年以上も前のことです。イギリス本国からの切手供給が需要に追いつかず不足分を急遽その場しのぎで作ったため出来栄えはお世辞にも良くなく、偽造を防ぐため現地の郵便局員だったE・D・ワイトのサインが入れられています。これはこの切手が1枚しか残っていないことを際立たせるエピソードです。
きれいな状態のものを見たいのであれば、もはや『切手の切手』に収められた1セント・マゼンタを見たほうがいいのかもしれません。でも、いくら状態が劣化しても実物を見たいという需要はなくならないでしょうね。せっかくイギリスに渡るのですから、来年(2022年)2月に開催予定のロンドン国際切手展に展示してもいいんじゃないかな! 日本から観覧に行けるのかは知らないけど! それでも今すぐ実物を見たいって? 2015年にモナコで開催された切手展<MonacoPhil 2015>で展示されていた様子が映像にて公開されているので、そちらをご参照ください。
英領ギアナ1セント切手 | Stampedia founder’s blog
http://stampedia.blog.fc2.com/blog-entry-1202.html