マクナマラの誤謬

先日、NHK総合で放送されていた『映像の世紀バタフライエフェクト マクナマラの誤謬』を見ていました。マクナマラとはアメリカ合衆国のジョン・F・ケネディ、続くリンドン・B・ジョンソン大統領下で国防長官を務めたロバート・マクナマラです。

神童と呼ばれたデータ分析の天才・マクナマラはベトナム戦争で勝つため、敵側の死者数に目標値を設定するなど戦争を定量化しましたが、北ベトナムの愛国心やアメリカ国内の反戦感情を読み切ることができず最終的にアメリカは敗北。このことは数字ばっかりを追いかけていると物事の全体像を見失いますよ、という意味でマクナマラの誤謬と呼ばれるようになりました。

しかし番組を見ていると、そもそも政界では素人同然のマクナマラを国防長官にスカウトしたのはJFK本人であり、またマクナマラ自身は途中でこの戦争に勝てないことに気が付きジョンソン大統領にベトナムへの派兵規模の縮小・撤退を提案していたことがわかります。しかし提案は否定され、マクナマラは戦争継続を余儀なくされました。両者の対立が深まっていく中、ジョンソン大統領が側近にこぼしたという言葉がインパクトが大きすぎました。

『私が求めているのは忠誠心だ。真昼間にショーウィンドウの中で俺のケツにキスして、バラのような香りがしますと言える男が必要なんだ』

I want real loyalty. I want someone who will kiss my ass in Macy’s window, and say it smells like roses.

もうこのセリフがパワーワードすぎて番組の残り部分が頭の中に入ってきませんでした。当然のことながらジョンソン大統領に対しそこまで忠誠心のなかったマクナマラはほどなくして国防長官を辞任して世界銀行総裁に転任、アメリカは南ベトナムから命からがら脱出して、戦争に負けることとなります。

これはアメリカ合衆国が1973年8月27日に発行したジョンソンの切手です。同年1月22日に亡くなったジョンソンを追悼するものです。

もちろん定量的な目標を設定すること自体が間違っているというわけではありません。が、それだけを見てしまうと肝心なところが抜け落ちてしまいます。そういう意味では会員数の増加を目標に掲げていた日本郵趣協会(JPS)もそうです(今もそうなのかは知りませんが)。今どき、お気に入りの新規の特殊切手を買っている人はJPSには入るほどでもないライト層がほとんどです。そもそも彼らは自分たちのことを切手収集家と自認すらしていません。JPSの内側だけで起こっていることだけが日本の郵趣界の全てであると思ってはいないと思いますが、ここを勘違いしてしまうとマクナマラの誤謬ならぬ『JPSの誤謬』として敗北を喫しかねません。